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「ご近所サマ」
番外3


私、悩んでます9(祝最終回☆さようならSS・「ご近所サマ」番外3)

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「ご近所サマ」さようならSS<番外3>
     「私、悩んでます」



 9.私、せっかくのエキサイト中に連れ出される





 横田は勝手にクローゼットを開けられて、またもや頭を抱えて絶叫中である。

「勝手に人の服、なんでドサドサ出すんだよーっ」
「逆・野球拳はだな、負けるたびに服を着てかなきゃいけねえんだよ。 暑さに負けて倒れたら負けだ」

 まるで戦地へ下っ端を送り出す司令官のような、キビキビとした指示が飛ぶ。
妙に横田が懐いていると思われる精悍な田下氏は、無駄に熱い。
なんで唐突にそんな懐かしいゲームのリメイクバージョンを、と気後れしかかったが、
どういった思惑での協力なのかはサッパリ分からないが、次にはやっぱり私が前面に押し出されていた。
一応は主要人物として遇されているようだったが、見回す全員の表情には含み笑い一色しか見当たらず
ただ単に宴会に色が欲しくなった気まぐれのようにしか思えなかった。

 対峙させられた相手は、なんと木谷氏だった。

「なんで俺が」

 それを言うなら何で私も、である。
 買出しによるインターバルのせいか酔いに程遠くなってしまっていた私たちは、当惑顔で部屋を見回した。
 部屋の移動中に酔いが急激にでも回ったのか、ハンナさんまでべらぼうにご機嫌ではしゃいでるし、全体的にお祭り騒ぎである。
平野さんだけが心配そうで、わめいている横田をのぞく他メンバーは高笑いで渋い表情の私と木谷氏を一蹴していた。

「いーからいーから。 着膨れすっる木っ谷を見ってみったい~」

囃す久我らヨッパチームを、疲れた顔で観察する私と木谷氏だった。

「ジャパニーズゲーム、デスネ! きゃー楽しみデス」とハンナさんまで拍手で大喜びである。

ジャパニーズゲーム、なのか?

日本人として心外な気もするが、ドイツにはきっと野球拳はなくて、見当がついていないんだろう。
よかった着膨れバージョンで、と胸を撫で下ろした。
ストリップバージョンをお披露目していたら、ハンナさんの日本贔屓が終焉していたかもしれない。

「しょうがないなあ。 まあ、脱がせられるほうじゃないだけいいか。 いい? 紗江ちゃん」
「いーんですけど、上に着るのって横田の服なんですね?」
「それ以外ないからね。 俺の上着着る?」

もちろんバカどものアカペラ歌に合わせての対決である。
ムダに歌まで本格的で、多少戸惑いを覚えていた私も思わず噴いた。





「や、きゅ、うーう、すぅるっならぁ~、こういう具合にしやしゃんせー、
 ハイ!
 投げたらこう打って、打ったらこう受けて。 ランナーになったらエッサッサ~。
 アウト! セーフ! ヨヨイノヨイ! じゃんけんぽん!」






正式に通しで初めて聴いたかもしれないな、と心の片隅で考えていたが
体を動かして勝負に燃えることは嫌いではない。
というか体育会で育った自分には激しくアドレナリンが吹き上がるものであって、
やればやるほど楽しさ溢れるものでしかなかった。
まあ「逆」野球拳でなければこうもノリノリになれたとは思わないが、
勝ったー!と飛び跳ねる私に、木谷氏は横田のシャツを上から重ねながら笑っていた。


「楽しそうだね、紗江ちゃん」
「私、負けず嫌いなんです」


どこかから何かの割れる音が聞こえた。
ような気がした。


「紗江の負っけ~! イエー」
「あーもうっ、初負けだ」


 全力で悔しがっていたら、ドンドンドンと激しく玄関ドアがノックされてきた。
ハンナさんが驚いて開けに走ってくれたら、すごい勢いで開いたドアから飛び込んで来たのは御厨だった。


「紗江っ」
「あ、御厨」


横田のジーパンをスパッツの上から履いている途中だった私は、振り向いた拍子に思わずよろけて転びかけた。
どうしてか血相を抱えてる御厨は、そんな私をますます動揺した眼差しで見つめていたかと思うと、
地の底から這い上がってきたかのような押し殺した声をあげた。

「は―――――話がある」


なんでか異様に強張った壮絶な顔色継続中の御厨を、酔っ払いどもが大笑いして「ドンドンパフパフ~」と口々に囃していた。
突然の乱入者にちっとも驚いてはおらず、ひたすら明るいバカ騒ぎだ。

 腕を引っつかまれて玄関の外に押し出された私をよそに、中の連中は私の代役に金井さんを立てたらしく、
「なんで俺―!」という大きな苦情と、その他大勢の大笑いが耳をつんざいてきた。
まだ私が対戦途中なのにー!という未練から振り返ろうとしたら、頭をガッと掴まれ、
再度御厨へ強引に向けられた。

 なんか、怒ってるらしい。
 でも、何に。

 廊下に二人きりになったものの、横田の部屋は騒がしいわ御厨の部屋からは何人かのぞいてくるわで、
非常に落ち着かない事この上ない。
マヌケに横田のジーパンを中途半端に履いたままの私をすごい形相で上から下まで反復凝視していた御厨は、
驚いたことにヤケのやんぱちの勢いでそれを足から引っつかんで脱がそうとしてきた。

脱がされても裸になるわけではないのだが、結構慌てた。

「何すんのっ」
「お前こそ何してるんだよ」
「野球拳だよ」
「そんなことを聞いてるんじゃない」


 じゃあ何だ。


 自分の部屋からのぞく男たちの冷やかしの目に気づいた御厨は、らしからぬ迫力で「入ってろ」と追い払っていた。


「それ男物だろ。 なんでそんなもん―――」


 しょうがないから、「逆」野球拳ていうやつらしくて
負けるとドンドン着せられてくルールなのだと説明したら、
すごい凍りついた顔面で冷ややかに見下ろされた。


「紗江………いいからもう、横田たちは放っておいてウチに来い。 何なんだよ今日は………」


何なんだよ今日は、という部分に対しては同意もやぶさかではなかった。
なかったが、せっかくノッてきだしたところだし、私には約束と恩と義理人情と負けず魂がある。

「うるさかったみたいで、ごめんごめん。 じゃあまた、まだ勝負中だから」

早く勝負に戻りたくてウズウズしながら、聞こえてくる金井さんのわめき声につい噴き出していたら、
すごい力で抱きすくめられて仰天した。

「ちょっ?」
「紗江」

 ぎゅっとまわされた腕にますます力が入り、すっぽり入った形の私は目を丸くして硬直した。


「何なんだ、あの男は。 花なんか持ってたけど―――今日もしかして、何かの日、だったか?」


何かお祝い事があったのについウッカリ忘れていたのでは、と狼狽しているようで声が困惑一色だ。
御厨は意外に義理堅く思いやりがあるので、まだ半年ちょっとのつきあいではあるが
一応は彼女の私を失望させてしまったのではと気にしているのかもしれない。
が、あれに関しては別に、誕生日とかそういう花束ではない。
どうでもいい心配をよそに、その質問に触発されてまたあの花束享受の際の感激がブリ返してきた私は、
大感激でもってノリノリで喜びをぶちまけた。

「あのね、生まれて初めて花束もらったんだ! すっごい嬉しくって、横田に花瓶借りて飾ったんだよ!
 ユリが入ってるからかな、すっごい花のにおいで部屋がいーっぱいになるの。 あんなに花って匂うんだね、全然知らなかったよ!」

大はしゃぎでさえずる私だったが、なぜか苦行僧めいたしかめっ面の御厨は、
面白くない話を我慢して聞き流しているかのように重たいため息をついていた。

「へえ――――」
「じゃあね!」
「こら待て」

帰ろうと体を回転した私を、グッと押さえつけるように両腕を掴んで留めてきた。
部屋の野球拳もムダな盛り上がりをみせているが、外廊下の御厨にもムダな切迫感が溢れていた。


「横田の部屋に移動したってことは、もう別にお前がずっと同席する必要はないんだろう?………抜けて、こっちにおいで」
「ハイ?」


思いっきり怪訝な顔で、こちらも見上げた。
確かによく分からないうちに場所替えをなされてはいたが、そもそも今回の飲み会企画は自分が発端で集めてしまったようなものだ。
それを放って抜けるというのは、義理人情的に許しがたい。

「それはできないな。 皆、私のせいで来てくれたようなもんだし」
「紗江のせいって、どういう意味? 大体、いつの間にこんなに集まるくらい親しくなってたんだよ。
 久我と横田は雀荘の常連だから分からないでもないけど、その他の知らない面々は何なんだ」
「横田の会社の同僚チームだよ」
「そんなのは分かってる。 そうじゃなくて」

何を言いたいのか分からん。

御厨の聞きたい情報をかすってもいないらしい私の返答ぶりに、御厨は困窮したように、
「違う、そうじゃなくて」と額を押さえていた。
訝しげにそれを見守りながら、全部をバラすわけにもいかないから適当に濁すことにした。。

「何が言いたいのか今一分からないんだけど、別に知らない顔がいたっていいじゃない?
 今夜にしたっていつの間にか、それなりに初対面の人たちとも親しくなれたしさ。 
 大体おかしいよ、その文句。 御厨だっていつもそうしてるじゃない。
 友達が友達呼んできて人数膨らんで、そのまま親しくなってく事も多いって前に言ってたよね」

紗江、と困った表情の御厨にのぞきこまれ、対峙しながらムッと眉間をしかめた。


 理不尽、だっ。


 御厨の交友関係だって、私にはチンプンカンプンだ。
聞けば説明してくれるのだろうが、あまりにもその数が多いので迂闊に口を出せないでいるっていうのに、
逆に御厨のほうは私の関係者一同をほぼ把握してる。
つまり、そのくらい私の交際関係者は数も質も貧困だ。
数が少ない上にろくな人間がいないことに、高野にまで呆れ顔で笑われているというのに、
ちょっと知らないメンツが登場したくらいで驚かれても不愉快だ。
確かに、東京で暮らし始めて出来た友達はマンション近所住民をのぞけば学校のトモちゃんたちくらいで、
揃いも揃って辟易するほどの男好きのアホばかりだ。

御厨の部屋に泊まる色気虫の女どもに対抗させても、バカ度で完全にこっちが負けだ。

でも、それがなんだ。

御厨が友達いっぱいで、「一年生になったら」の歌じゃないけど
富士山の上でも囲まれておにぎりを食える状況だからって(参照@「一年生になったら)
貧困極まりないこっちのの交際現状を、見下す権利はないんだからね!

 と、全然違う方向でドタマにきだした私に、私の新たな交友録になぜかケチをつけたそうにしているようにしか見えない御厨は再び
なぜか本気で狼狽して迫ってきた。


「ちょ――――待った!  何を怒ってるのか分からないんだけど。 
 ただ俺は、あの花を貰った経緯とかそのへんを聞いてるだけで――――」










遅い更新で申し訳ありません
野球拳には痛い思い出しかありません
                   
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御厨と紗江、壁極薄状況下での
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