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「ご近所サマ」
番外3


私、悩んでます④(祝最終回☆さようならSS・「ご近所サマ」番外3)

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「ご近所サマ」さようならSS<番外3>
     「私、悩んでます」



 4.私、焦ってます




「あの、美味しいかどうかは分からないんですが、一応ちょっと作ってみましたので、どうぞ……」

 ああ、こんなことになるんだったら、少しは腕を奮えばよかった。
 実際のところは奮う腕なんか無いに等しいくせにそんな風に後悔しながら、
どうせ食べるのは高野・久我っち・横田なんだからいーやと思いっきり適当に作ったツマミたちを、
冷や汗気分で差し出した。

「おーっ」

それなのに瞳を輝かせてくれる全員がまぶしい。 
特に金井さんの反応はすこぶる良かった。
男性だけどなぜか親近感を覚えるポッチャリ金井さんは、外見にふさわしく相当食い意地が張ってそうである。
こういう食べるの大好き系の人にまで「不味い」って言われてしまったら哀しすぎる。
空腹は最高のソースなのを思い出し、その腹が壮絶に空いていることを祈らずにはいられなかった。


「わー、珍しいな杉山が気を使ってる」
「横田! あんたケンカ売ってる?」
「じゃ、遠慮なく~」
「いただきます」
「杉山さん上手デスヨ~、この春巻きの包み方」
「あ、ハンナさんごめん、それ冷凍食品………」


 ようやくアルコールと適当な肴で空気が弛緩し、わいわい弾みだした自宅でドッと肩を落とした。
微妙な気まずさが払拭されていったのでとりあえず安堵はしたが、
このメンバーで酔って騒いで、泥酔してうちに泊まるっていう初期設定だったのを思い出したからだ。


 本当に、このメンツで泊まるつもりなのか。


 頭を抱えてる私を放置し、宴会は順調にスタートを切っていた。 あくまでも今のところは。
案の定というかやっぱりねという感じだが、ハンナさんの優しい雰囲気と笑顔に
金井さんも平野さんも多少浮かれているようである。 ナイスアシストである。

でも、もし泊まるって事になった場合、ハンナさんもちゃんと泊まってくれるんだよな。

じゃないと、私のぞいて全員が男になってしまうじゃないか。
あまりにも至近距離にある、ハンナさんと横田の部屋。 思わず近所であることを呪いたくなる今夜だった。
いかん、と不安要素を振り払うように首を振った。



泊まってもらえるか悩むのはやめて、意識的に泥酔させて意識を失わせよう。



人としてそれは――――という思考にて結論を済ませた私は、
笑顔を浮べながらジャンジャン冷蔵庫からバイト代の化けた酒どもを運びまくった。


「アッチも盛り上がってるみたいだぜ」


うちのベランダから御厨の部屋のほうを偵察してきた横田の発言に、再度メラメラと闘志が沸く。

御厨のバカ、
あんたのそういう八方美人なとこなんか大嫌いだ!

 鬱蒼とした気分で缶チューハイをあおる私に、ハンナさんが心配そうに寄り添ってきた。

「杉山さんは泥酔しなくてもいいんデスヨ?」
「だって、頭にくるんだもん」

むくれて酒に逃避する横で、横田は疲れた感じに胡坐を組んでいた。
それもそうだ、一週間の疲れもピークになる金曜である。

「でもさー。 こんなアホなことで、本当に御厨が改心すんのかね」

横田の痛い指摘に、しますヨ、とハンナさんが珍しく強気に膝立ちで反論を繰り出してくれている。

「やきもちでメラメラになりマスヨ」
「それは杉山だろ」

むっ、と悔しいが唇を尖らせて横田を睨んだ。
確かに。
へこんでしまい、お通夜の客のように酒を舐める私をハンナさんが励ましてきた。

「あんなに杉山さんを大事にしてる御厨さんデスヨ? 男性客がこんなに遊びに来ているのを見たら、
 思わず嫉妬をしてしまいマスヨ」

そううまくいくかな………と何も始まっていないうちから落ち込む私へ、金井さんが質問してきた。

「前に見たことあるけど、あのノッポの人だよね彼氏って。 やっぱ、そんなにモテるんだ?」
「うん………まいったよ」

彼女だと紹介されても面と向かって「私もずっと御厨が好きなんだよね」とか抜かされた話や、
あからさまに私を笑う感じの悪い人たちの話をすると、ハンナさんも金井さんたちも面白いくらいサーッと顔色を変えた。

「わー……そんな直接的に挑発されてるんだ」
「ヒドイ!」
「いや、ハンナさんはこないだも聞いてたじゃ―――」
「確かに、そんな嫌な女が出入りしてるんじゃ、いい気分じゃいられないよなあ」
「ヒドイ!さあ杉山さん、飲んで!」

なんていい人たちだ。
さっきの自分の腹黒思考を忘れ、思わず目が潤んでしまいそうになった。
さあ呑もう!と一致団結して、ますますペースが上がっていく私たちだった。

「御厨って女を見る目がないよな~。 わっ、何で蹴るんだよ杉山! お前の応援してやってんじゃねえか」
「あんたが言うと、私までけなされてる気になるんだよね、不思議とっ」
「杉山さんは可愛いデスヨ」
「ハンナさんてマジ、優しいっすね~」
「おい」

てんでで好きに吠えつつ飲んでたその時、ピンポーンとチャイムが鳴ったので
全員で面倒くさそうにドアを睨んだ。

「久我っちだ」
「なんかツマミ買ってきたかな~」
「久我先輩がそんな気を使う訳ないじゃん」
「いや自分の分だけだったら買ってきそう。 そんでくれないの」
「久我さんらしいデスネー」

家主が迎えろと横田に背中を押され、
ブーブー文句を言いながらドアまで渋々と向かい、景気よくドアを開けた。

「久我っち、遅いよ! なんか食べるもんを――――」
「え?」

 とたんに目の前に立つのが御厨だということを知り、その場で思わず軽く飛びすざってしまった。
意味不明な動きをする私に、御厨は困惑の眼差しを向けてきた。


「久我って…………え?」


奥で円陣組んで宴会中のメンツに気付いた御厨は、ビックリしたようにその場で固まっていた。

「よーう御厨」
 横田が手を振ってよこし、お義理のようにその周囲も会釈をよこしている。
しばらく状況が理解できないのか、御厨の動きは止まったまんまだった。


「なんで紗江んちで飲み会?」




 なんでだとう!?




思わずムカッときて真下から睨みつけた。
自分ちでだって、宴会やってるじゃないか。
私だってやって、どこが悪いのだ!

「ちょっとね」
頑張って余裕をぶっこくこちらの発言に驚いたように目を瞬いた御厨は、
どこか呆然とした様子で慌てて見つめてきた。

「ちょっと……何?」
「仲良くなったんだー、横田の会社の人たちと」

ねっと奥へヤケクソで声を張り上げると、「イエッサー」と全員がゲラゲラ笑ってふざけていた。
どうも本気で泥酔コースに全員乗っかってくれているようである。
ありがたや、と思わず振り仰ぐこっちは拝みそうになった。

「御厨、何か用があったの?」

あまりに驚いてくれてるんで胸がすく気持ちで尋ねると、まだ目を見開いたままこっちを見下ろしてきた。


「いや、今日は、お前も飲み会に参加しないかなあと思って……」


 そうきたか。
 ちょっと感動しかけてしまい、顔が緩みそうになるのを必死で抑えた。

 初めて誘われたのである。
今まではどんな時も誘いもくれなかった事にモヤモヤしていたため、
思わず感無量にかりかけた。
やっぱり私の様子がおかしいって気にしてくれてたのかな、
そう思うとちょっと胸のモヤが晴れるような気がした。

だが、今日の私はいつもと一味違うのだ!
客を呼んでしまった以上、最後までやり抜かないわけにはいかんのだ。
動揺を隠せない御厨の様子に少々気をよくしかけていた私が、必死で顔色を取り繕っていたその時だった。



「おっす、御厨~」



ちょうどやってきた女性が、チョコンとのぞきこんできたのである。
思いっきりさっきまで話題にしてたその女性の突然の登場に、こちらはアゴが外れそうになった。
今日も今日もでスレンダーな肢体に似合うパンツスーツ姿のその女性は、
御厨に向かって殺人的微笑を浮べ、艶めくロンゲをかきあげていた。

「佐野?」


御厨が振り返ったその女性こそ、
「私もずっと御厨が好きなんだ」
と私に牽制をかました人だったのである。


「えへへ、来ちゃった。 あっ彼女さんだ、こんばんわー」
「こっ、こんばんは………?」


目を皿のように見開いて動揺しながらの私の挨拶に、彼女は微妙な笑みで返してきた。


「あれー、彼女も今夜は友達を呼んでるの?」


その言葉に、やっと金縛りを解かれ、ハッと気を取り直した私だった。


 そうだよ、今夜はこっちも対抗泥酔ナイトなのだ。
でも何だか負けてる気がするのは気のせいなんだろうか。
おかしい。

御厨を見返す作戦のはずなのに、彼女になぜか嬉しそうな顔をさせているのはどうしてだ。


「紗江、ちょっと話が」


御厨が私の頭に伸ばしてきたその腕を、彼女が笑ってパシッと弾いた。

なに妨害しちゃってんのこの人、
と思わず御厨と一緒になってアゼンとした。



「やだ御厨、やきもち? 邪魔しちゃだめじゃーん、彼女だってお友達つきあいはあるでしょ? 自分だって散々やってるくせに」




そっ―――――そうだ!

だからこそ腹が立って、こうやって高野の案に乗って―――――――








あれっ。
なんかおかしくないか?


「じゃね、そっちも楽しんでね。 ほら御厨行こ、真下たち来てる?」
「紗江、あの料理ってお前が作ったのか?」

腕を引っ張られ消えていく御厨の上げた声に、ハンナさんが憤慨した。

「気にするとこは、そこだけデスカ!?」
「えっ………ハンナさん? あ、紗江まだ話が」
「じゃねー」  



バタン。



ドアの向こうから「おい!」という御厨の声と、「しつこくすると嫌われちゃうよ~」という華やかな笑い声が聞こえていた。
それは奥の連中にも同じだったようで、部屋は思いっきり静まり返っていた。
そして私は、閉まったドアの前でしばし呆然と立ち尽くしていた。



あれっ。
おかしいぞ。

なんであっちに負けた感が盛大に、胸の中をざわざわしてるんだ?







不敵な佐野とモテ御厨に鉄槌なるか
(次回から人数乱入し大事化)
                   
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更新が大幅に遅れまして申し訳ありません!
それから皆さん、拍手をありがとうございます
300って――――――壮絶に面食らってます

拍手コメントへのお返事を書きましたので
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御厨と紗江、壁極薄状況下での
試行錯誤エッチの歴史が
下、拍手ボタンで連載スタートしました。
(今回は第四話、足が攣ったためタイム&再プレー)
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