横田「今日は突発SSだそーです。卒業シーズンの学生さんに捧げるって名目で、俺の過去話が暴露されるらしい………
って何で俺の?」
杉山「紗江でーす! 卒業を目前に自由登校の皆さん、おめでとうございます! 私には卒業でのドラマって
あったことがないので羨ましいでーす」
横田「だろうね」
杉山「死ね横田」----------------------------------------------------------------------------------------------------------
ご卒業シーズンお祝いSS 「宝探し」 三年も通ったのに、夜の学校は初めてだった。
何せずっと帰宅部だったし、一緒に遊ぶ仲間も皆似たり寄ったり。 だから三年になって、峰岸と仲良くなったのは予想外だったけど、面白かった。
彼は思いっきり体育会系運動部に燃えてた口で、それなのに妙にムキムキなわけでもなく、スマートで落ち着いたいい先輩をしていて、引退してからも後輩の面倒をよくみていたようだった。
なぜ私がそれを知っているのかというと、今夜の夜の学校訪問も 峰岸の陸上部絡みだったからだ。
「あったー?」
「うん」
峰岸の所属していた陸上部追い出しコンパに全然関係のない私が呼ばれていたのは、私の友達が峰岸の陸上部仲間と付き合っていたから。 関係者じゃないからいいよと固辞したのだけれど、いいじゃんいいじゃんと強引に連れ込まれて、さっきまで店にいたのだ。
なのに、今私は峰岸と高校の敷地内にいる。
峰岸が部室からドアを屈むように抜けて出てくるのを、風に吹かれながら眺めていた。 夜の外には馴染みがあるけれど、それは塾帰りに通りすぎる繁華街だったり、友達と繰り出す明るいネオンの夜の街だ。 だからこんなに深々とした静かな夜の匂いはある意味新鮮で、そんな風を嗅ぎながら手持ち無沙汰に手を後ろで組んでいた。
「ドアより背が高いんだ」
「ここのドアが規格外に低いんだろう」
なんてことはないようにそう答えて、峰岸は見つけたらしい物を暗がりの中で遠くのライトを頼りに、何だこれというように手の上で転がしていた。
「軽い………それも何だ? 新聞紙じゃないか、この包装。 なんでまた、今年に限ってこんな面倒な」
後輩のイベントはどうも峰岸には不評だったみたいだ。 くすっと笑って、背を伸ばし暗闇に浮かぶそのシルエットを見上げた。
「そんな暗いとこで見てないで、部室に電気つくんじゃないの? そこで見ればいいじゃない」
「だって沢口が外にいるから」
「え? 私のせい? だって私、部員じゃないし……」
遠慮してたのを気を使ってすぐに外に出てくれたのかな、と思うと胸がくすぐったくなった。 二人でいることにかなり緊張しているけど、それに気づかれるのが怖くって妙に歯切れよく早口になってしまう。 だって峰岸に、私はずっと片思いしていたから。
誰も知らないこの気持ちは、卒業と同時に時間が緩やかに消していってくれるだろう。 散々一人で泣いて悩んだけれど、それでいいのだと思う。
峰岸は遠い大学にいってしまうから。
「そういえば横田くんたち、さっきまで走ってなかったっけ」
気がつけば六人でいたのに、私たち二人だけしかいなくなっていた。 一応は無断浸入だからと無言でバタバタ騒いではしゃいでいたはずの四人の気配がない。 そのことに唐突に気づかされ、自分の希望よりもかなりうろたえた声になってしまった。
手の中の重みを確かめるように上下していた峰岸の、かすかに笑った気配が届いた。
「横田がバカだから、酔ってんのにはしゃぎすぎたみたいだな。 気持ち悪いって騒いでたのは聞こえたから、トイレにでも連れていったんじゃないか」
「ああ、横田くんらしいね……」
静かな校庭の片隅で二人、こっそり小さく吹きだした。 横田くんは転勤の都合が入った家族ごと北海道に住むことが急に決まったとかで、今日を最後に卒業式にも出れないことになっている。
「北大に入った意味ねえー! 一人暮らしをとことんさせない気だな!」
と文句を言っていたらしく、峰岸も呆れて笑っていた。 横田くんを好きな子は切ないだろうなあと思う反面、つめが甘くいつもずっこけている横田くんは、やっぱり最後の最後まで彼らしくてちょっとおかしかった。
「あいつがまたえらく遠くに行くもんだから、俺らが霞んでしょうがない」
峰岸も面白そうにそう笑った。 そうだった、峰岸も一人で遠くにいくんだ、とまた再確認させられ、ぎゅっと胸が引き絞られるように痛んだ。
「宝探し、してきてください」
店で後輩らに満面の笑みで言われ、峰岸も横田くんも、友達の彼氏の小暮も目を丸くしていた。
それを横目で眺めていたけど、まさか私もそれに同行させられるとはその時は想像もしていなかった。
「せっかくだからですね、夜のこわーい学校を堪能して思い出を作ってもらおうってことになったんすよ。
抜け穴の場所は知ってますよね? 部室、音楽室、家庭科室にそれぞれ隠してますから」
「おい」
「何だよそれ。 今までこの場で進呈が決まりだったじゃんか」
横田くんと小暮の不平に、後輩くんたちは大笑いしていた。
「だって先輩たち三人とも、遠く行っちゃうからもう陸上部と縁が切れちゃうじゃないすか。 加藤先輩たちの時は
OBとして来てくれるの知ってたけど、もう学校とはこれでお別れでしょー。 堪能してってくださいよ」
何が何だかよく分からなかったけれど、異例のことみたいだった。 部の後輩一同からの卒業プレゼントを、今回は
趣向を変えて学校に隠しましたから、今夜乗り込んで探してきてくださいねという事らしい。
横田くんが異常に怖がりなのを知ってておもしろがってるんだと小暮がその場で言ったから、私もその場は他人事で笑っていただけだった。 頑張ってねとのんきに笑っていたくらいだ。
だから、
「おい、沢口も出発」
と峰岸に背中をこづかれ、真剣に驚いた。
「えっ? なんで私まで行くの?」
驚愕する私は、友達の美歩から手を合わせて拝まれた。
「ごめーん。 真樹もつきあって! 私とマネージャーの子がついてくのに、ここに真樹をおいていくわけにいかないじゃん」
そう言われてしまえば、部外者の私だけが残って飲んでるっていうのは確かにおかしかった。 当惑しながらも、妙に元気な後輩らに見送られ、店を出発した男女三人づつの六名だった。
行く道の途中で、美歩がこっそりと教えてくれたことには、横田くんにマネージャーの子がどうも告白したいようだという話で、思わず驚きの声をあげそうになり慌てて口を抑えてしまった。
「えー横田くんに? 大丈夫かな、相手が横田くんじゃ」
美歩も吹き出していた。
「あいつのニブさは半端じゃないからね。 顔しかいいとこないのにどこがいいのか謎だけど、直球で言われたらいくらあのバカでも気づくんじゃないかな」
どっちにしろ、叶うのを望んではいない告白みたいだからなあと美歩は笑っていた。
それはそうだ。 横田くんは、明後日には北海道に家ごといってしまうのだ。
並んで歩く友達の目元が潤んでいるのを見ないふりをして、そっと足を進ませた。
美歩と小暮も、卒業を期に遠く離れてしまう。 何度も悩んで言い争って泣いているのを、ずっと眺めてきた。 折り合いをどうつけたのかまでは私は知らなかったけど、今夜の美歩は和やかに過ごそうと決めているみたいだったので私もそれに倣っている。 切ないだろうなあと、気持ちを思えばなんだか哀しい。 片思いの私ですら辛いのだから、余計に。
お互い好き合っているのにもう、毎日のように学校で会えていた日々は終わっていく。 恋なんかするもんじゃないな、とその場で胸の中、ひっそりと呟いた。
「相沢が介抱してるんだろうな」
峰岸の声にふっと意識が横にそれていたのに気がつき、内心ではちょっと慌てた。 そうか、峰岸もマネージャーさんの気持ちを知って協力してあげてるんだ。
だったらここに二人でいる理由がうなずける。 さりげなく話を合わせた。
「あのマネージャーさん、まだ二年生なんだよね」
「ああ。頑張り屋だし真面目な子。 横田に自分にないものを見てるんだろうな」
さりげなく毒舌だ。
そういえばさっき私も告白のことを聞いて、横田くんに伝わるのかなと即座に懸念が飛び出たのを思い出し、笑いが込み上げた。
「でもなあ、卒業だし、引越しだし………なんだか哀しいね」
私の声は広いグランドを吹き抜ける風にのって消える。
この時間も、この場所も、すぐに思い出になって去っていってしまう。
真っ暗で、校庭沿いに植えられた木の茂みが黒々と浮き上がる空の下、私たちはどこまでも小さかった。
期待しても別れがすぐにくる。 なのに、彼女は横田くんにそれでも告白したいと決めたのだ。
なんだか無性にさびしくなり、横にいる峰岸と二人きりでこの静かさの中にいるせいか、峰岸にどうしてか触れたくなった。
友達としては物の貸し借りの時やふとした時に手が触れることは今までもあったけど、今それをするには何の理由もあるわけじゃないし、どう考えても不自然だ。 彼女でもないくせに。
寒い、というように両手を前で擦り合わせ、そんな急な衝動をごまかす。
最後にこんな風に二人きりになれたこの時間が愛しかった。 こんな機会はおそらく、もうない。
ただの片思いだけど、大事に覚えておこうと思った。
その瞬間、ぐいと前で合わせていた手を引かれてバランスを崩した。
驚いて目を見張る私は、私の頭を見下ろすように近付いてくる峰岸を、ただバカみたいに見つめていた。
「峰岸?」
引き寄せられてスッポリと峰岸の体に包まれたのがわかったと同時に、信じられないほど体の熱が高まってますます体が硬直した。
「な、なんだろう?」
「見習おうかと思って」
耳元に峰岸の吐息がかかって、身を竦ませた。 動揺するあまり、ますます背が反った。
「な、何をかな?」
なんでこんなバカみたいに間抜けな返ししかできないんだろう、と咄嗟に自己嫌悪に陥ったが、すぐに状況へ意識が引き戻された。
「ごめん」
「何がごめん? あの、峰岸」
「こんなに小さいんだな、沢口って」
「意味がわからないよ峰岸」
きつくはないんだけれど、その拘束はあまりに突然だったから私の動きは封じられて、鼓動はますます激しく波打つばかりだ。
髪になにか柔らかいものが触れて、それからわずかに私たちの体に隙間が生まれた。
目の前で見下ろしてくる峰岸の表情が、その薄暗い背景に溶けてよく見えない。 きっとみっともないくらい紅潮してるこちらの頬も峰岸には見えないだろうと勝手に期待した。
「沢口」
「うん」
「俺、ずっと沢口を好きだった」
ふっと笑う気配がした。 よく見えないけれどきっと今、いつものあの柔らかい笑みが浮かんでいるんだろう。
もうこっちはビックリしすぎて、痛いくらいに目を全開にし声を失ってた。
峰岸が私を好き。
その意味を、何度も何度も胸の中で反芻する。
峰岸も、同じだったんだなんて。
「諦めてたし、言うつもりもなかった。 だけど相沢を見てたら、何だか最後くらいはって……伝えたくなった。 急に沢口に触れたくなって、我慢できなくなった。 ごめんな。 卒業式でもう一度会うと思うけど、怒ったなら無視してくれていい」
慌てた。
何で私が断る前提で話しているんだろう、峰岸は。
慌てたあまり、自分にしたらとんでもない行動にでてしまった。 離れていこうとする峰岸の両腕を捕まえてこっちから抱きついたのだ。 これには自分が慌てた。 峰岸もアゼンとしているようで、狼狽のためか体が横にずれた。 引っ付いてる私も、その動きにならって横に移動する。
「さ、沢口?」
「待ってよ。 私だって好きなんだけど。 まだそれも言ってないのにどうして断った話になってるのか、そこがわかんないよ」
私の早口に、峰岸のはるかに上にある頭がぶれた。
「好き?」
「そう!」
「お、お前が俺を?」
呆然としてるみたいだった。 その時になって自分の突発的行動にハッと気がつき、うろたえた私はパッと両手を離して後ずさろうとした。 それをまた綱引きみたいに今度は峰岸から手が伸びてきて、舞い戻らされた。
「あっ…」
また、耳に峰岸の白く吐かれた息がかかり、恥ずかしさに身をよじる。 怖いくらいに今度はしっかり抱え込まれ、頬が厚い胸にへばりついた。
上のほうから切なそうな苦しい息が降る。 もう心臓がおかしくなりすぎて、自分で自分が制御できずにいた。
「そんな声だすなよ、やばいから……」
「いや、ビックリしたせいだし………」
しばらく外気の冷たさも忘れるくらい、体が恥ずかしさで燃えるように灼熱していた。 だけど次第に湧き上がっていく嬉しさは今まで経験したどんな喜びよりもはるかに大きくて、迫ってくる卒業も遠距離も別れをも全てを忘れさせた。
峰岸の大きくて長い指が私の背中と髪を撫でる。
「あのさ………全然、こうなるって想像してなかったから俺テンパッてるんだけど、一つ聞いていいか」
「う、うん。 いいよ……」
「遠距離って、どう思う?」
「わ、わかんない………した事がないから」
「まあ、そりゃあそうだろう。…………そうだよな。 難しいよな」
「でも、終わらせたく、ないよ。 せっかく通じたばっかりなのに」
意図せず泣きそうな声音になってしまい、峰岸は優しく私を抱きしめた。
「……………うん」
静かに冷たい指が私の頬のラインをなぞった。 その指が震えてるのが寒さのせいでなのか、緊張のせいなのかは私にはわからない。
指があごに触れたのと、もう片方の手が後頭部へ差し込まれ上へと引き上げたのと同時のことだった。
冷たくて柔らかな感触が、こちらの唇の上を覆って、ちょうど吐いた息ごと飲み込んでいった。
今までになく近付いている峰岸の顔が、ふっとほころんだ。
「こんなに冷たくなって。 部室にちょっと入ろう? 風くらいは遮れるから」
「うん。 いいのかな」
いいよ、と部室に入って彼が電気のスイッチをつけた時に、まぶしさに一瞬目を細めたそのすぐ後に、峰岸の耳のへんが赤くなっているのに気がついてしまった。
いつも大人で落ち着いている峰岸のあまりにらしくないその色味に、こちらの軸がグラッと揺れる。
あの不意打ちのキスに負けないくらいに。
「あのね」
急に泣きたくなった。 そんな突然の私の涙声に、弾かれたように峰岸は振り向いたようだった。
「ずっと、ずっとね。 私も好きだったの。 ごめん、勇気がなくてずっと言えなくて」
今までの色んな気持ちが溢れてきて、とまらなくなった。 静かに目を拭っていた私の前に、峰岸が腰をかがめ同じ高さに目線を合わせてくれた。
「もっと早く俺から言えばよかった」
それからまた柔らかい笑みを浮かべた気配と、私の頭をゆっくり引き寄せた、まだ冷たい指の感触。
「宝探しを、今年に限ってやってもらってよかった」
そういえばそういうコンセプトだった。
問題は山積みで、あまりにも先は遠くて見えない。
でもこの時間を持てたこと、この時間をずっと好きだった峰岸と共有できたこと。 それは、本当に大きい。
今頃、友達のカップルと横田くんとマネージャーも、二度とない時間をこの敷地内で過ごしてるんだろうか。
先がわからない不安より、たった今の私は目の前にある暖かい瞳にまっすぐに自分が映っていることに感無量となってしまって、またもや霞む視界に困ってちょっと微笑んだ。
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横田「俺関係ねえええええええええええ!!」
杉山「爆笑中です。 しばらくお待ちクダサイ」
横田「何だよオイ! 峰岸、あん時そんな事してたんかよ! あのムッツリスケベ!」
杉山「どこがどこがムッツリなのよ~! すごく素敵じゃんっ。 私もこういうの、いつか出来んのかなあ~。
ていうか、横田この日告られたんだね!! どんなだったの!?」
横田「あー………。 ガン見されてんなとは思ってたけど、俺のことが好きだったのかよってビビってるうちに
平手打ち喰らったのしか覚えがない」
杉山「笑い死ぬ」
横田「でっ、でもな! その後はちょっとは文通したんだよ相沢とは」
杉山「もうお腹が苦しくてダメだ」
横田「くそー………でもな、これで俺が生粋の北海道育ちじゃないって分かっただろ? カニもそりゃあ怖いさ。
大学から住んだだけなんだからな!」
杉山「はいはい、それでプレゼントって何だったんですか? 新聞紙に包んであったブツは」
横田「忘れた。 えーと何だっけ? ユニフォームだったっけか、バスタオルだったような気も……」
杉山「ご卒業、おめでとうございます。 時間は取り返しがつきません。 どうか心残りのない卒業をお迎えください。
心から、おめでとうございます!」バレンタインデーなのに
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